東京高等裁判所 昭和38年(う)994号 判決 1963年7月25日
控訴人 被告人 石井菊郎
弁護人 笈川義雄
検察官 大江兵馬
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中七拾日を原審の言い渡した本刑に算入する。
理由
控訴趣意第一ないし第三について。
(一) 数罪が牽連犯となるためには、犯人が主観的にその一方を他方の手段又は結果の関係において実行したというだけでは足りず、その数罪間にその罪質上通例手段結果の関係が存在すべきものであることを必要とする。原判決が原判示第一の別表22および第二の各事実につき挙示する証拠によると、原判示合資会社油惣商店に勤務し、経理および集金の事務を担当していた被告人が、日新化工株式会社から売掛代金の支払として同商店に交付された同会社取締役社長大滝信四郎の引受人としての署名押印のある、振出人欄の空白な、額面五十二万三千八百円の為替手形一通および額面四十一万四千円の同形式の為替手形一通を業務上保管中これを着服横領したうえ右二通の手形の各振出人欄をほしいままに補充して、合資会社油惣商店代表社員高石秀雄振出名義の為替手形二通を偽造し、これを高橋一雄に対し貸与のため一括行使したものであることが認められる。右のごとき業務上横領の罪と有価証券偽造行使の罪とがその罪質上、通例手段結果の関係にあるものとは認めがたいから、以上を牽連犯と認めることはできない。その余の原判示業務上横領の各罪と右有価証券偽造行使の罪との間になんらの関連性もないことは、原判決の引用証拠により明らかである。したがつて、原判決が以上業務上横領の罪と右有価証券偽造行使の罪とは別個独立のものであるとして、その間に牽連犯の関係を認めなかつたのは正当である。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 坂間孝司 判事 栗田正 判事 有路不二男)
弁護人笈川義雄の控訴趣意第一点
原判決は刑事訴訟法第三八〇条所定の誤がある。既ち
(イ)原判決は「法令の適用」と題する中で「……右有価証券の偽造と行使の間は手段結果の関係があり右一括行使の点は一個の行為で数個の罪名にふれる場合であるから以上につき同法第五四条前段及び後段第十条を適用して犯情重い偽造有価証券行使の一罪として処断すべき処。これと判示第一の業務上横領の各所為とは同法第四五条前段の併合罪の関係にあるから同法第四七条本文第十条に則り云々」と判示している。
然し乍ら、本件手形の偽造行使の所為は手形金額の手段として実行したものである事は判文上明らかであつて、従つて本件文書偽造行使と横領の各所為の間には相互に手段結果の牽連関係があつて刑法第五十四条一項末段により原判示第二事実と第一事実は処断せらるべく同法第四七条により併合罪を以ては論じえないものである。
(その余の控訴趣意は省略する。)